法的拘束力なし

未必の故意

昔書いた小説冒頭部分を引っ張り出してみました。

いきなりぽんと、本文置いちゃいますね。

はい。

 

 

―Who Are You.―


『3週目、失敗のお知らせです』

意味のわからない校内放送が頭の中を響かせる。

「私は、一体……」

「いや、これが正解だよ」

教室で誰かが呟いた。

涼やかな風が教室を通り抜け、廊下に抜ける。

静かな、誰もいない教室だった。

けれど校内に誰もいないという訳では無い。

時刻は16:50分である『らしい』。

今は放課後であり、生徒達は部活しに外に『出払わせられている』。

「どうして……」


『知っているだろう』

「……」


『Replay』

________________________

 

9月1日

「嫌味なヤツ……」

夏休みも真っ只中、補習なんてものをとることもなく、塾に通っているわけでもない私だが、9月1日だけは暇ではない。

この日は『私の起源』と言える日であり、この時から全て無為な時間は過ごせない。

確実に効率よく立ち回るために、ルールブックを作るのだ。

「この語りが誰かに聞かれるものだと言うことも、この書き記す行為も、すべて書き記されている」

まずはそうノートに書き記した。

「Replayってなんだよ!! もう一度繰り返せ!? せめてtryって言えや!!」

そんな無駄であるはずの怒号も今や1人のものではない。

『読者』がいる。
『筆者』がいる。

さて、私の『本来の役割から外れる練習』は止めて本題へ入ろう。

 

例えば、私たちの世界に絶対な神がいたとしたなら。
私たちの意思も行動も偶然さえも、はじめに設定されたパラメータによって生じているだけだと言えるだろう。

ボールAがボールBにぶつかることによって二つは今までとは違う軌道を描く訳だが、それはぶつかる前から決定していた事。ということだ。
さらに言えばボールが存在する以前から確定していたことかもしれない。
いや、『事実そうなのだ』。

しかしこれを信じる人間は少ない。
どれだけ科学を妄信しようと、『予め決められている』という現実は何にも代え難いストレスなのだ。
いや、現代科学では不確定性の原理など、そういった電子や量子にまつわる真の乱数の存在を仮定することが出来ているから『予め決められている』という妄想から逃げ出すことが出来る。あるいはそれも決められていることかもしれないが。


けれど、そんな科学さえも『決められている世界』ならば?

どう抗えばいいのだろう。


唐突に突きつけられた『貴方に設定を付け加えます』という言葉。

その後に続く言葉は酷く痛快なものだった。

『私は読者に挑戦する』

別に私が文学少女ということをアピールしたい訳では無い。
事実、この言葉が誰のどの小説で扱われているかは知らない。ただ聞いたことがあるだけ。

それでも、ひどく痛快だった。
その言葉と同時にこの世界が『筆者』によって作られたものだと、『読者』に期待されているものだと理解させられた。あぁ――ひどく痛快だ。

では、高校生活、やたらと波乱万丈な事が『彼』を中心に起こっていたのはそういう事だったのかと、そんな風に考え始めると何もかもが冷めて見えた。

何もかも空虚に思えた。

かつてそういう『役割』で描かれていたから、今度はこの設定を加えられて描かれるのだろう。
世界を呪う少女が、今度も世界を呪う少女のままでありながら主人公にされる。
『中の世界を呪う少女が、外の世界を呪う少女に』
本当にユニークな皮肉だ。
世界を呪っていた理由も、『彼』が『ヒーロー』である理由も、どんな理由も全て1人の犯人に持っていかれた。
文字通り全てがだ。
仮にだ、私が勝ったとして、それが勝利だとなぜ確信できる?
作られた確信をどうして信じられる?
いいや、信じるとか、疑うとか、そんな次元の話ではない。信じるように設定されることも、疑うように描かれることも、全てが思いのままのはずなんだ。
なのに、やれと。そう『筆者』は言うのだ。

あぁ、呪ってやろう。抗ってやろう。それが私の役割だから。

 


今は4度目だ。前はどうなった。
『彼』は本当にヒーローだったか。
真実を告げただけで『ヒーロー』を中心にあれだけの『役割』が動き出した。

その結果があれだ。
集団自殺
教室には誰もいなくなった。
涼しい風と共に綺麗な声の口内アナウンスが靡く。

誰かがこんなことを言い出した。
「今までこの教室で色んなことが起きた。起きすぎた。その異常性は無視できるものじゃない。原因はこの『場所』にあるのかもしれない」
きっと、普通の作品ならば、それで良かった。加速度的に物語は進み出し、解決に向かう。そういうシナリオになっただろう。
だが普通じゃない。
そんな解決策こそ、愚の骨頂だ。その言葉が発せられた時点で終わりへのレールは一本に絞られたと言ってもいい。
確かに今まで『教室』という箱庭を中心に描かれていたものが多かった。
であれば、教室以外のどこかで私達が死ねばすべて終わるのではないか、と。
作品のコンセプトを折る事で解放へ導くという方法。
しかし、どんな因果か、これが『役割』の力か、全員が教室に集まった。

それが前回の悲劇。前回の『筆者の傑作』。

一言にするならば、

・私たちの最高の抵抗は作者にとって、最高の傑作の要素にしかならない。

「……それでも抵抗しない訳にはいかない」

 

9月1日。

『私は読者に挑戦する』


ノートの最後にそう書き記して、私は動き出す。

 

 

――――ヒント――――
・筆者が彼女を選んだ理由は明確にある。
・抵抗は全て傑作のための道具にしかならない。
・それでも抵抗させられる。
・『私は読者に挑戦』しなければならない。
・過去の作品に関わりのない人物はいない。

 

 

 

 

 

どうでしょうか、楽しんでいただけたでしょうか。

あなたはこの世界が『筆者』によって描かれた世界ならばどう思いますか?

 

 

私はですね。こんなクオリティの高い設定で書いてくれてありがとう。この感謝もこの行動も全てあなたが決めていたとしてもそう思います。

 

 

 

 

 

きっとそういう『役割』で産んだと、ちゃんと理解しながら・・・・・・